研究概要 |
嵩高いペンタメチルシクロペンタジェニル配位子を有する2価有機ルテニウム錯体、Cp*Ru(cod)Clを用いた、ニトリルと1,6-ジイン類との新規触媒的環化付加反応を開発した。その結果、電子吸引基を持たないニトリルに含まれる、電子的に中性のシアノ基が本触媒反応にはほとんど活性を示さないのに対し、カルボニル基やペンタフルオロフェニル基等の電子吸引性置換基により活性化されたニトリルが、1,6-ジインとの環化付加反応に有効であり、90℃の加熱条件下双環式ピリジンを形成することを見出した。一方、マロノニトリルやフマロニトリルの様な、電子的中性のシアノ基を適度な長さの連結鎖で繋いだジシアニド類が、二つのシアノ基の一方でのみ室温下で効率良く反応し、対応する双環式ピリジンを生成することを明らかにした。 炭素-窒素三重結合に加え、炭素-ヘテロ原子二重結合が触媒的環化付加に用いることができれば、新たな複素環化合物の触媒的合成法の開発に繋がる。そこで、炭素-酸素および炭素-窒素重結合を併せ持つ、イソシアネートをCp*Ru(cod)Cl触媒をもちいて90℃の加熱条件下1,6-ジイン類と反応させたところ、炭素-窒素二重結合で選択的に付加環化し、双環式ピリドンが良好な収率で得られた。一方、炭素-窒素二重結合と炭素-硫黄二重結合を併せ持つ、イソチオシアネートとの反応では、炭素-硫黄二重結合上で環化が進行し、チオピランイミンが得られた。硫黄原子が極めて強く重金属元素に配位することから、有機硫黄化合物は一般に触媒毒となることが知られており、炭素-硫黄二重結合が触媒的環化付加反応に適用されたのは、これが最初の例である。さらに、反応条件を工夫することにより、二硫化炭素も1,6-ジインと環化付加し、ジチオピリドンを得ることに成功した。
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