研究概要 |
本研究では,末端アセチレンと遷移金属との反応によって生じるビニリデン金属錯体の反応制御を機軸とした,新規有機金属錯体合成と新規有機変換反応の開発を行った。反応制御法として電子環状反応とシグマトロピー転位を利用した環化反応をデザインし,その検討を行った。本年度成果を以下にまとめた。 ■α-ピラニリデン金属錯体および(2-フリル)カルベン錯体の新規合成法の開発 (Z)-β-エチニル-α,β-不飽和エステル1と各種6族金属錯体[M(CO)_5L(M=Cr,Mo,W;L=THF or Et_3N)]を室温で反応させると,ビニリデン錯体2が発生し,続く分子内環化を駆動力としてα-ピラニリデン金属錯体3がそれぞれ62%,35%,63%の単離収率で得られた。1とクロムおよびモリブデン錯体との反応では,トリエチルアミンの添加によって初めて3が生成することが明らかとなった。このことは,トリエチルアミンがビニリデン錯体2の生成を促進していることを示している。また,アミド類との反応も同様に進行し,対応するα-ピラニリデン金属錯体を与えた。 一方,(Z)-β-エチニル-α,β-不飽和ケトン4と各種6族金属錯体は,室温で速やかに反応し,(2-フリル)カルベン錯体5を良好な収率で与えた。5は,ビニリデン錯体ではなくアルキン錯体から直接生成していると考えられる。 ■シス-1-アシル-2-エチニルシクロプロパンの接触的芳香族化反応 シス-1-アシル-2-エチニルシクロプロパン6は,トリエチルアミン共存下,触媒量のM(CO)_5(THF)錯体(M=Cr, W)と室温で反応し,オルト置換フェノールに定量的に変換された。6のアシル部がエステル,アミドの基質では,反応は全く進行しなかった。本反応は,ビニリデン金属錯体7が関与する[3,3]シグマトロピー転位反応により生成する7員環Fischer型カルベン錯体8を経て進行したと考えられる。
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