研究概要 |
鉄は地球上で4番目に存在度の多い元素であり,低毒性で環境に対する負荷が小さく,環境に優しい「グリーンケミストリー」の実現のために好ましい元素と考えられるが,触媒反応への応用例はさほど多くない。我々は,鉄イオンの性質に注目した触媒反応を開発したいと考え,触媒量の過塩素酸鉄(III)塩によって,シクロプロパノンチオアセタール類の分子内ラジカル環化反応およびtrans-アネトールの環化二量化反応2)が進行することを見いだしている。今回,さらに反応媒体に着目して研究を進め,電子豊富なスチレン類とベンゾキノンの3+2型環化反応による多元素環状化合物の合成を検討した。 鉄イオンの酸化電位は反応媒体によって変化し,アセトニトリル中では1電子酸化剤として働くことが知られている。そこで,アセトニトリル中,3mol%のアルミナ担持過塩素酸鉄触媒でシクロブタン誘導体が90%以上の収率で得られることを明らかにしていた。 trans-アネトールの環化2量化反応は,電子豊富な基質を1電子酸化して発生するラジカルカチオン種を他の電子豊富な分子が補足することによって進行していると考えられる。そこで,もし,電子不足な基質と電子豊富な基質の間の1電子移動を,鉄イオンが橋渡しするような触媒反応が構築できれば,ドナー分子の電子をアクセプター分子へ鉄イオンが橋渡しすることで生じるラジカルイオンペアにより環化体が得られることが期待される。そこで,アネトールと電子不足オレフィンとの反応を種々検討したところ,メチルビニルケトンをアクセプターとした時に,[2+2]型の環化体が不満足な収率ながら得られることがわかり,さらに1,4-ベンゾキノンをアクセプターとすると,[2+2]型の反応ではなく,[3+2]型の反応が進行し2,3-ジヒドロベンゾフランが生成した。反応を最適化したところ,3mol%のアルミナ担持過塩素酸鉄触媒でほぼ定量的に2,3-ジヒドロベンゾフランを得ることができた。 ついで,常温溶融塩であるブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェート([bmim]PF_6)溶媒中で3mol%の鉄(II)フルオロボレート(Fe(BF_4)_2)を触媒にスチレン誘導体とキノンを反応させると,2,3-ジヒドロベンゾフラン誘導体が得られ,しかもアセトニトリル中では数時間要する反応が数分間で完了するという顕著な反応加速が実現した。また,この反応システムによる触媒のリサイクル使用を行うこともできた。
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