研究概要 |
本研究は、(1)第3周期以降の高周期元素(重元素)の持つ特性の一つである超原子価結合を形成した新規複素環の合成とその構造化学および化学的諸性質の解明、(2)超原子価化合物の特性を利用した新しい有機合成反応の開発を目的に行われたものである。以下、平成13年度の成果を概説する。 (a)光学活性なジナフトヘテロール類の合成とその光化学的挙動(ラセミ化)に及ぼす超原子価結合の影響:2,2'-dilithio-1,1'-binaphthylに各種の求電子試薬(MX_2;M=ArSb, Ar=p-Tol, o-NMe_2CH_2Ph, o-MeOCH_2,o-MeSCH_2Ph ; M=R^1R^2Si, R^1R^2Ge)を作用させることにより、期待する各種のジナフトヘテロール類(1)を得た。1(M=Sb-p-Tol)の単結晶X線解析から、第15族元素化合物の場合、ヘテロール環の平面性は周期表の周期が増すほど低下すること、^1H-NMRのコアレス法より、ラセミ化の活性化自由エネルギー(ΔG_c^□)は周期表の周期が増すほど大きくなること、超原子価結合はΔG_c^□値にほとんど影響を与えないことなどが判明した(Tetrahedron Lett.2001)。また、光学活性なジナフトヘテロール類(M=Sb-p-Tol、SiHMe)の初めての単離に成功した。(Tetrahedron,2001) (b)3-ベンゾスチベビン類の合成とその熱化学的挙動に対する超原子価結合の影響:(E, E)-o-bis(β-bromovinyl)benzeneのt-BuLi処理によって生成する1,6-ジリチオ体に様々なSb試薬(ArSbX_2;Ar=Ph, p-Tol, p-MeOPh, p-F-Ph, o-NMe_2CH_2Ph, o-MeOCH_2Ph, o-MeSCH_2Ph)を作用させて対応する3-ベンゾスチベビン類(2)を合成し、Sb上の置換基が2の熱的安定性[加熱(50〜60℃)により容易に脱メタル反応(-M-Ar)が起こる]に与える影響を系統的に調べた。その結果、安定性はSb原子上の電子密度に影響され、これが低い程安定性が増すことが示唆された(安定性:A_1=p-F-Ph>Ph>pTol>p-MeOPh;超原子価結合形成化合物の安定性:Ph>Sb-OMe>Sb-NMe_2)。(投稿準備中) (c)分子内超原子価結合を持つ1,5-アザスチボシン類の合成とその有機合成試薬としての活用:SbとN原子間に超原子価結合を持つ1,5-アザスチボシン類(3)を合成し、その構造と有機合成試薬としての機能を調べた。その結果、3のX線解析でN原子のtrans位にありアピカル位を占める置換基RのSb-炭素結合の伸長が認められるとともに、Pd触媒下における有機ハロゲン化物とのクロスカップリング反応において、置換基Rの反応性が大きく向上することが判明した。現在、その詳細をまとめている。(投稿準備中)
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