研究概要 |
リオトロピック液晶高分子であるPBLGの相図はチムニー構造を示し,これまでも等方相における棒状高分子としての溶液物性,液晶相におけるコレステリック構造,ウイリアムドメイン,動的散乱現象の解析がなされてきた.等方相から,等方相と液晶相との混在相へのゾル-ゲル転移について動的光散乱法(DLS)を駆使して研究を行って来たが,ナノスケールにおけるPBLGゲルの多孔質構造制御を目的として,本研究課題では電場印加下でのゾル-ゲル転移挙動の解析を行った.本年度は,電場印加下でゲル化させたPBLGの構造・組織解析を主に直交ニコル下での偏光顕微鏡観察で行い,併せてプローブ法DLSの測定も行った.以下に得られた結果とその考察をまとめる. 1.電場無印加下でのゲル化過程では,PBLG濃度の上昇とともに,アイソジャイヤ組織のない暗視野,球晶構造,プレーナー指紋領域が発達したポリドメイン構造へと変化した. 2.直流電場を印加すると,濃度の上昇とともに,偏光顕微鏡像はシュリーレン状組織,高次球晶構造,指紋状組織が消失した大規模組織となった.いずれの濃度でもゲル構造の発達が促進された. 3.これに対して,交流電場を印加すると,ある特定の周波数において,球晶サイズの減少,ポリドメイン構造の境界域の不明瞭化が観測され,ゲル構造の不安定化あるいはゾル-ゲル転移の抑制・無秩序化が見られた.しかしながら,これらの挙動は,その特定周波数を外れると明瞭には観測されなかった. 4.直流電場印加,低濃度の場合は,コレステリック構造がネマチック構造に相転移し,その結果,繊維状分岐構造の発達により,ネットワークが形成されるものと推定される.一方,高濃度側では発達した球晶があたかも一次核のように振る舞い,その周りのPBLG鎖の再配列で分岐構造が形成されると考えられる. 5.PBLGゲルの構造が多孔質であることはこれまでも電子顕微鏡観察から推定されてきたが,プローブ法DLSから始めて膨潤状態における多孔質構造が確認され,ゾル-ゲル転移がPBLG鎖間の連結とミクロ相分離の競合過程であることを裏付けた. 今後はこの競合過程における粘弾性的性質と交流電場の周波数とのカップリングを利用したさらなる精級なゾル-ゲル転移の制御を試みる計画である.
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