研究概要 |
我々は主に水素結合の形成・解離に基づき遺伝情報の伝達・発現、タンパク合成さらに触媒機能等高度な機能を有する核酸に注目し、その機能発現の外部刺激・因子による制御を目指し、動的な水素結合のon-offスイッチング機能を有する人工核酸の開発に取り組んでいる。RNAの有する2',3'-cis-ジオールに注目し、水溶液中においても可逆的に形成されるホウ酸エステル形成ならびに核酸塩基-フラノース糖部の水素結合形成を協同的に利用することにより塩基部の配向制御さらに核酸認識機能の動的on-off制御を可能にする核酸モデル分子として、RNAを認識部位として有する新規ペプチドリボ核酸(PRNA)と言う新しいカテゴリーの人工核酸を提案し、開発を行った。 ピリミジンヌクレオシドの塩基部は溶液中でanti配向を優先することが知られている。我々は外部因子によりsyn配向を効率よく誘起するため、(i)塩基部2位カルボニル酸素とフラノース部5'位水素間の水素結合形成、(ii)フラノース部2',3'-cis-ジオールとホウ酸類との架橋構造形成の協同利用に着目した。5'位水酸基をアミノ基に変換した5'-アミノリボヌクレオシド(5'-NH_2-Urd)を合成し、塩基部配向をCDならびにNMRスペクトルにより検討した。5'-NH_2-Urdの6位照射の^1H-NMR差NOEスペクトルをリン酸緩衝液中で測定するとanti配向が示されたのに対し、ホウ酸存在下ではsyn配向を優先することが明らかとなった。またCDスペクトル測定においても、ホウ酸存在下では[θ]max値は84%減少した。すなわち、ホウ酸類による2',3'間の架橋構造形成ならびに分子内水素結合形成の協同効果により外部因子による核酸塩基部のsyn配向誘起が達成された。この結果を踏まえ、5'-NH_2-Urdをフリーなcis-1,2-ジオールと5'位に水素結合供与体を有する形で導入した人工核酸として、ペプチドリボ核酸(PRNA)を設計・合成した。ホウ酸類よるPRNAのanti-syn配向制御についてもCD,^1H-NMR-NOEを用いて検討した結果、5'-NH_2-Urd同様塩基部の配向制御が可能であることが明らかとなった。さらにPRNAは相補的DNA・RNAと安定な錯体を形成し、ホウ酸類の添加により速やかに錯体が解離することが明らかとなり、外部因子によって可逆的に核酸との水素結合のon-off制御に基づく錯体形成・解離が制御可能な初めての核酸モデルであることが示された。
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