研究概要 |
プロトン-電子連動現象(PET)を示す多核金属ユニットの探索・開発と、ユニット集積化の方策について検討した。 (1)ビスヒドロキソ架橋二核銅ユニット[Cu(μ-OH)_2Cu]は有効な「PETドナー」である。今回の実験でまず始めに明らかにした点は、トリアザシクロノナン(tacn)誘導体を用いれば、確実に[Cu(μ-OH)_2Cu]が構築される事である。この結果を踏まえ、2つの「PETドナー」ユニットを両末端に持つディスクリート系四核銅錯体1を合成した。元素分析、各種分光学(UV-Vis, IR, ESR)より、錯体1の銅周りは期待した[Cu(μ-OH)_2Cu]構造を採っている事が確認された。このドナーユニットには「二点水素結合」と「π-πstacking」によるキノンゲスト(PETアクセプター)認識能がプログラミングされているが、溶液中でのキノン捕捉は観測されなかった。 (2)上のアプローチに加え、キノンをメディエーターとする二核金属コアの次元集積化も試みた。トリス修飾型tacn誘導体L_<p3>でビスヒドロキシ架橋Cu(II)二核錯体を合成し(錯体2)、それと多様なキノン誘導体との包接現象を検討してみたが、これまでのところ期待した1次元連結化は達成されていない。錯体2のX線構造解析より、カウンターイオンとして用いた過塩素酸イオンが架橋ヒドロキソイオンと水素結合を形成しており、その結果、キノンとの水素結合が阻害されている事がわかった。過塩素酸イオンを非水素結合性のテトラフェニルボレートで置換し、同じく[Cu(μ-OH)_2Cu]骨格を有する銅錯体3の合成に成功した。X線構造解析では「キノンゲスト認識用キャビティー」の構築は確認されたものの、今のところキノンを捕捉した「ホスト・ゲスト複合体」の単離には成功していない。 分子模型の考察によれば、(1)(2)のアプローチともゲスト捕捉に関する立体的な障害は考えにくく、スペーサーに導入した芳香環サイズを大きくすることでπ-π認識能をより強化する事が今後の課題であることがわかった。
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