研究概要 |
植物においては、メタロチオネインの一種ファイトケラチンが重金属に対する生体防御の中心的な役割を果たしている。ファイトケラチンの合成を司どるファイトケラチン合成酵素(PCS)は、細胞内の重金属濃度に応じて活性化されることから、重金属濃度を感知する「センサー能」を持つと推定されている。本研究ではPCSの触媒機構ならびに活性化機構の解明を目標としており、今年度は発現系の改善を行うとともに、重金属センサーと予想されるC末端領域を系統的に欠損させた変異型PCSの作製および機能解析を行った。 昨年度までに、蛋白質の構造形成に関わる分子シャペロン量を増加させた発現系で、PCSの可溶化発現を改善できることを示した。本年度は引き続き、PCSの大量調製を試みたが、プロテアーゼによる分解のためか、構造解析に必要な可溶性産物の供給が困難なことが判明した。そこで、プロテアーゼ遺伝子を欠損させた大腸菌宿主での発現を検討したところ、細胞質プロテアーゼLon、ClpP、HslUの3つを欠損させたW3110D Lon、ClpP、HslUにおいて、PCSの発現量が野生株W3110に比して10倍以上と、飛躍的に改善されることを確認した。 次いで、重金属センサーとして機能すると予想されるPCSC末端を系統的に欠損させた変異体8種類(PCSΔC1,PCSΔC2,PCSΔC3,PCSΔC4,PCSΔC5,PCSΔC6,PCSΔC7,PCSΔC8)を作製し、W3110D Lon、ClpP、HslUにおける発現を確認した。C末端領域を全て欠損し、ファイトケラチン合成ドメインのみを持つ変異体(PCSΔC8)過剰発現株は、全長型PCS過剰発現株と同様にカドミウム耐性を獲得したことから、PCSΔC8にもファイトケラチン合成活性があると示唆された。PCS活性化におけるC末端領域の機能解析は今後の課題てある。一方、不溶性産物を形成しやすいPCS全長型と同様に、PCSΔC8も不溶化しやすいことが分かり、構造解析に適した試料調製のために、分子シャペロンを用いたPCSΔC8の可溶化、および蛋白質工学的手法によるPCSΔC8のフォールディング能の改善が、今後引き続き検討すべき課題であると考えている。
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