研究概要 |
1.トマトモザイクウイルス(ToMV)の弱毒株の解析から,複製酵素が転写後型ジーンサイレンシング(PTGS)のサプレッサーであることを予想していたが,アグロインフィルトレーションアッセイによりこれを証明した.また,サプレッサーの作用点がサイレンシングに伴い生じる21〜25塩基のsiRNA合成以降であり,かつ配列特異的なRNA分解酵素複合体の形成以前であることを突き止めた. 2.タバコモザイクウイルスに感染したタバコが呈するモザイク症状の形成において,PTGSが如何に関与するかを解析した.その結果,葉がまだ極めて小さい時期(モザイク症状が目視できる以前)におけるウイルス分布が重要な要因と考えられた.その際,侵入したウイルスがサプレッサーの機能発現により感染を成立させられるか,あるいはウイルスにわずかに先行して成立するPTGS(すなわち抵抗性反応)により感染が阻止されるかの優劣が境界線を形成すると想像された.最初に形成される境界の一方がウイルス増殖域としてやがて淡黄部に,もう一方がウイルスフリーの濃緑部になることが考えられた. 3.ToMVの感染性DNAをDEX誘導性のプロモーターに繋いだコンストラクトを導入したN.benthamianaを作出し解析した.この形質転換体では,DEX処理により数十%の細胞でToMV感染を誘導できた.感染植物由来の個々の感染細胞は,ウイルスの複製・増殖のステージという点で極めて不均一である.ToMV感染を同調的に誘導できる系の確立により,均質な感染細胞集団を得ることができる.この形質転換体は今後複製や細胞間移行のみならず,その他のウイルス感染過程の研究における様々な解析に有用となることが期待される.
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