研究概要 |
私共はこれ迄に、マウス嗅覚受容体遺伝子MOR28クラスター(MOR28-10-83-29A)を導入したトランスジェニックマウスの解析から、MOR28遺伝子クラスターの発現には、その転写開始点上流約100kbの領域が必要であることを示した。最近、マウスMOR28クラスター及びそのヒトorthologクラスター領域に関するDNA塩基配列がそれぞれ決定され、私共の解析により、MOR28遺伝子の転写開始点上流約75kbに、唯一、双方で相同性の高い2kbの領域が同定された(Nagawa et al.,Gene292,2002)。本年度の研究において、MOR28遺伝子の上流に存在するこの相同性領域を欠失させたトランスジェニックマウスでは、MOR28,10,83,29A遺伝子の発現が同時に消失することが判明した。この観察は、嗅覚受容体遺伝子の発現がクラスターのレベルで制御されており、一つの嗅覚受容体遺伝子が選択される前に、一つのクラスターがchoiceされることを示唆している。 また、私共はこれ迄に、染色体上で同一クラスターに属し、且つ、同一サブファミリーに属する嗅覚受容体遺伝子は、嗅上皮の同じゾーン内で発現し、それら発現細胞は嗅球上で近接した糸球に軸索を投射することを示した(Tsuboi et al.,J.Neurosci.19,1999)。そこで本年度は、マウス嗅覚受容体遺伝子MOR28クラスターを含めた複数のクラスターに関して、嗅覚受容体遺伝子を発現する嗅細胞の軸索投射先を解析した結果、"同一クラスター上に存在し、同一サブファミリーに属する嗅覚受容体遺伝子を発現する嗅細胞は、類似した匂い分子を受容し、嗅球においては局所的な糸球ドメインに軸索投射する"ことが示唆された。 一方、嗅上皮で発現する嗅覚受容体遺伝子は、四つのゾーンの中いずれか一つに限定して発現しており、嗅上皮におけるゾーンに対応して、嗅細胞の投射先である嗅球にも四つのゾーンの存在が知られている。そこで本年度は、嗅細胞の特異的な軸索投射の第一段階であるzone-to-zoneの対応を解明する為、嗅上皮で領域特異的に発現する遺伝子をdifferential display法を用いて探索したところ、嗅上皮のゾーン1で特異的に発現している四つの新規クローンが得られた。その中でも新規遺伝子OMACSは、medium-chain acyl-CoA synthetase遺伝子と高い相同性を示し、嗅上皮のゾーン1を構成する細胞で特異的に発現しており、然もラットの胎生11.5日から発現していることから、ゾーン形成に何らかの役割を果たしていることが示唆された(Oka et al.,Eur.J.Biochem.,in press)。
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