研究概要 |
神経極性は神経細胞の基本的な形態的・機能的特性である。しかし、神経細胞の極性がいかにして形成されるのか、その分子機構はあまり理解されていない。本研究は培養海馬神経細胞を研究材料として、神経細胞の極性形成の分子基盤を明らかとすることを目指している。 プロテオミクスの手法を用いて神経極性形成機構の分子基盤を解析するために昨年度開発した超高解像度二次元電気泳動法をさらに改良した(Proteomics 2,666-672,2002;BioForum Int.6,324-325,2002)。本法は従来の手法と比較して感度が飛躍的に向上し、従来の泳動法の5倍(約11,000個)の蛋白質スポットの検出に成功した。そこで、このシステムを用いてラット培養海馬神経細胞の軸索あるいは樹状突起・細胞体に濃縮する蛋白質と極性形成時に発現が上昇する蛋白質のディファレンシャル解析を行った。その結果、神経細胞に発現する細胞骨格・膜蛋タンパク質5,164個のうち4%にあたる200個ものタンパク質が軸索に、27%にあたる1,414個のタンパク質が樹状突起・細胞体に濃縮することがわかった。また。神経細胞に発現するタンパク質6,197個のうち4.3%にあたる265個のタンパク質が神経極性形成に伴って、発現が上昇することが明らかとなった。以上の結果から、神経極性の形成・維持には数多くのタンパク質のネットワークが関与するものと考えられる。 現在、これらのタンパク質を質量分析法を用いて同定中であり、すでにいくつかの興味深いシグナル分子や細胞骨格調節タンパク質を同定している。今後、これらの分子群を培養海馬神経細胞を用いて発現機能解析を行い、神経極性形成を担う分子群のシグナルネットワークを明らかとしてゆく予定である。
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