研究概要 |
四肢の発生にはAER形成が重要で,そのAER形成にはbeta-cateninを介したWntシグナリングが関与している。ニワトリ胚予定肢芽領域にマウスWnt-3aを過剰発現させる実験で異所的なAERが形成されることが報告されているが,我々のこれまでの実験ではニワトリWnt-3aを過剰発現させても異所的なAERは誘導されない。このことは,同じWnt-3aでもニワトリとマウスで活性が異なることを意味し,Wnt-3a以外のWnt遺伝子が真のAER誘導因子として機能していると考えられる。 AERで発現しているWnt遺伝子の中でWnt-10aに注目しクローニングを試みたが,現時点では5'側数十塩基を残したところで中断し,全長の単離には至っていない。そこで,すでに同定されているマウスWnt-10aを用いて欠けているアミノ酸を補い,Wnt-10aのAER形成における機能を類推した。アミノ末端側43アミノ酸がマウスに由来するmgWnt-10aは予定肢芽領域での強制発現により異所的なFGF-8の発現を誘導した。従って,Wnt-10aがニワトリでもマウスでもAERの誘導に関与していると考えられる。 ニワトリとマウスのWnt-3aを強制発現させたときの表現型が異なっていたことから,アミノ酸配列の大きく異なるN末端側のドメインスワッピングを行い,AER形成において必須の領域の特定を試みた。結果は予想に反し,N末端側24残基がマウスに由来するmgWnt-3aでは異所的なAERを誘導できなかった。マウスWnt-3aで誘導される異所的なFGF-8の発現には,シグナル配列を含むN末端側の残基だけでなく,マウスとニワトリ間で比較的保存されている残りの領域が必須であること,すなわち保存されている領域のわずかな配列の違いによってWnt-3aの活性が異なることが確認された。
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