Shhタンパクは、形態形成に重要な働きをする分泌性のシグナル分子である。本研究では、ptc遺伝子のhypomorphなアリルであるmes変異体を用い、胎生後期におけるptcの機能解析を行う。Mes変異とptcノックアウトアリルとのコンパウンドヘテロ個体(ptc^~/ptc^<mes>)における肺の形態を発生の段階を追って調べた。その結果、発生中期(〜E15)までは肺の形態に大きな異常は見られなかったが、E16でわずかに、そしてE17、E18とより重度な間葉細胞の過増殖が観察された。一方、将来肺胞を形成する上皮性内胚葉細胞には、大きな増殖異常は観察されなかった。また、肺の発生期に細気管支の先端部や基部で部位特異的に発現する遺伝子(SP-C、CC-10)の発現を調べたところ、これらの遺伝子の発現領域に異常は見られなかった。よって、ptc^~/ptc^<mes>胚における間葉細胞の過増殖は、基部-先端部軸形成異常による2次的な影響でない事が明らかとなった。以上の結果より、mes突然変異によって失われたptcのC末端ドメインは、肺の基部-先端部軸形成には必須ではないが、発生後期に間葉細胞の増殖抑制に関与していることが明らかとなった。 ptc^~/ptc^<mes>胚における神経管背腹軸形成を調べるため、神経管の特定に位置に形成される神経細胞のマーカー遺伝子の発現領域を解析した。その結果、ptc^~/ptc^<mes>胚において、高濃度のShhによって誘導されるNkx2.2だけでなく、中濃度のShhによって誘導されるNkx6.1の発現領域にも異常は見られなかった。さらに、神経管背側で発現し低濃度のShhによって抑制されるPax3の発現領域にも異常は観察されなかった。よって、PtcのC末端ドメインは、神経管の背腹軸決定に必須ではないことが明らかとなった。以上の結果をまとめると、ヘッジホグシグナル伝達系は、PtcのC末端ドメインを必要とする間葉細胞の増殖調節に関与する系と、必要としない神経管背腹軸形成に関与する系の2つに分岐している可能性が示唆された。
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