既存の天然蛋白質とは独立に新しい機能を持った人工蛋白質が設計できるようになれば、蛋白質の構築原理研究のみならず、その応用範囲は甚大である。本研究では、天然蛋白質の立体構造情報に基づいた合理的設計と実験室進化実験を組み合わせることによって、以下のような新規人工蛋白質の合成を行った。(1)新しく開発した分子設計用ポテンシャル関数を用いて、DNA結合タンパク質λCroの立体構造を安定化する人工的なアミノ酸配列を設計した。この配列をコードする人工遺伝子を合成し、蛋白質を大腸菌中で発現、精製後、生化学的な解析を行ったところ、ターゲットとしたダイマー構造をとっていなかった。そこで、疎水性コアの中に部位特異的ランダム変異を導入し、native PAGE解析により、重合状態に関してセレクションを行った。選択された人工蛋白質は、ターゲットとしたダイマー構造をとり、天然様の立体構造特性を示した。(2)蛋白質立体構造中のアミノ酸側鎖コンフォメーションと残基間接触の統計的解析から、構造特異性(単一性)の指標となる新しい関数(ΔS_<conf>^<contact>)を作製した。この関数は、これまでに報告されている天然および人工蛋白質の変性実験から得られたフォールディングの共同性(m値)と高い相関を示した。これを用いて人工グロビンの再設計・再合成を行ったところ、NMRによって検出される構造特異性が改善された。これらの結果は、理論設計と実験室進化実験を適切に組み合わせることによって、天然様の構造特性をもつ人工蛋白質が、天然蛋白質のアミノ酸配列情報とは独立に合成できる可能性を示す。
|