研究概要 |
われわれは、spectral karyotyping(SKY)法を基盤にして、特定の染色体についてGバンドに一致したバンド単位でおのおの異なる色調により識別することができる新しい染色体カラーバンディング法、spectral color banding(SCAN)法を開発した。 本研究の当初の目的は、このSCAN法を染色体レベルで全ゲノムをカバーし網羅的に解析できる方向へと進展させていくことであった。しかし、サイズが短くバンド数も少ない染色体(19〜22番染色体、Y染色体)では、SCAN法はあまり有用でないため、これらを除いた19種類の染色体について優先的に解析用のバンディングプローブを調整することにした。このうちの13種類(1,3,5,7〜16番染色体)の染色体について、SCAN法でのゲノム構造解析を可能にした。われわれは、このSCAN法で用いる特定の染色体のバンディングプローブとその染色体のペインティングプローブだけを除いたSKYプローブとを一定の比率で混合して使用すると、特定の染色体はカラーバンド像で、他の染色体は従来のSKY法と同様にそれぞれを固有の色調で識別することに成功した。この結果は、全種類の染色体のバンディングプローブを揃えて混合すれば、ゲノム全体を網羅的に解析できる可能性があることを示唆するものである。 本研究のもうひとつの目的は、SCAN法を癌のゲノム構造異常が解析できるツールとして実用化させることであった。SCAN法によって、癌の染色体異常を解析した結果、由来不明の異常断片の同定が、従来のSKY法による染色体単位からバンド単位へと、飛躍的に精度を向上させることに成功した。また、複雑な構造異常においては、この方法で転座切断点を精確に決定できた。SCAN法は、癌のゲノム異常の解析技術として有用であり、実用可能であることが示せた。
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