研究概要 |
平成13年度は、ガス壊疽の起因菌、ウェルシュ菌の全ゲノム配列の決定および解析が終了し、その成果をPNASに報告した。3,031,430bpの染色体塩基配列が明らかとなり、染色体上には2,660の遺伝子が同定され、すべての遺伝子についてアノテーション作業を行い、それらの機能を分類した。約55%の遺伝子について機能が推測でき、残りについては機能未知の遺伝子として分類した。ウェルシュ菌はアミノ酸代謝系の遺伝子のほとんどが欠損し、外界からのアミノ酸獲得が不可欠なことが明かとなり、ウェルシュ菌の新たな病原遺伝子(少なくとも26種類)や従来より同定されている病原遺伝子によって宿主から栄養を取り込むことが病原性の本態であることが推察された。 こうして明かとなった病原遺伝子の発現調節に関しては、二成分制御系、VirR/VirSシステムがグローバルな調節系として知られているが、本研究により新たな病原遺伝子制御機構が明かとなった。VirR/VirSシステムに調節される遺伝子、hyp7の解析を行なったところ、本遺伝子領域はα-毒素、κ-毒素遺伝子の発現を正に調節する二次的調節遺伝子であることが明かとなったが、その本体はhyp7遺伝子のコードするタンパクではなく、RNA(VR-RNA)そのものが毒素遺伝子の転写を調節することが明かとなった。ウェルシュ菌における転写調節RNAの報告は本研究が初めてであり、今後全ゲノムにおける同様の調節RNAの解析が期待される。 また、本研究におけるウェルシュ菌ゲノムに存在する1uxS遺伝子の解析を通じて、1uxS遺伝子はウェルシュ菌からのオートインデューサー(AI-2)の産生に関与していることが明かとなった。1uxS遺伝子による細胞間情報伝達により、毒素遺伝子の1つであるθ-毒素遺伝子の転写が調節され、α-毒素、κ-毒素の産生も景響を受けていることが明かとなった。ウェルシュ菌の病原性発現に対して細胞間コミュニケーションが関与することが本研究ではじめて明かとなり、混合感染時における他の細菌とのコミュニケーションや本菌感染に対する治療法などの研究に非常に有用な知見が得られた。今後はウェルシュ菌ゲノム情報を利用したDNAチップの作製を行ない、本菌の病原性発現調節機構をよりグローバルに行なう予定である。
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