研究概要 |
コアプロモーター構造を認識する基本転写因子TFIIDは、転写開始前複合体のアッセンブリーに際して核となる分子であり、転写調節因子から受け取った信号を転写量の増減へと変換する上で中心的な役割を果たす。我々はTFIIDサブユニット(TAF)の生体内機能について解析を進める過程で、TAF145のN末端に存在するTBP機能阻害領域(TAND)がTFIIDによる転写活性化の分子スイッチとして機能する可能性を見出した。またコアプロモーターの認識能に異常をきたすTAF145点変異体(N568Δ,T657K)を新たに単離し、これらの変異株においてはTATAボックス以外のコアプロモーターエレメントの認識に異常が見られることを示した。 一方、普遍的転写因子であるTFIIDあるいはSAGA複合体の標的遺伝子をゲノムスケールで同定するため、まず上記各種taf145変異株と野生株(対照)に対して独立に三回のDNAチップ実験を行い、二回以上の試行において正負2.5倍以上の変動を示した遺伝子を有意なTAF145標的遺伝子とした。その結果N568Δ,T657K,ΔTAND株において、それぞれ397,521,49個の標的遺伝子が同定された。これらの遺伝子群をさらに分類したところ、N568Δ,T657K,ΔTAND株において特異的に影響を受ける遺伝子がそれぞれ375,272,26個存在し、共通に影響の見られた遺伝子は15個のみであった。同様の解析をtaf61-1,2変異株についても行い、それぞれ429,511個の標的遺伝子を見出した。この場合も各株に特異的な標的遺伝子がそれぞれ220,302個、両株に共通のものが209個存在した。以上の結果は、いずれのtaf変異株においても、それぞれの変異によりTFIID(あるいはSAGA)複合体の異なる機能が損なわれたことを示唆している。
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