研究概要 |
ゲノム上の遺伝子配置情報に基づいて,ゲノムの全体構造を比較するための数理的方法の開発と全構造の決定されたゲノムへの適用を行った.具体的には,ゲノムの形状を考慮して,環状と線形ゲノムそれぞれについて遺伝子配置比較法を開発し,各種データベースから収集した細菌及び酵母の遺伝子位置情報について解析を行った.解析結果は以下のとおりである. 1)環状ゲノム間の配置類似性に関して統計検定が行えるように比較法を改良した.その方法を19細菌ゲノムのorthologous遺伝子配置に適用した結果,相対的位置を維持する遺伝子群の存在や最も類似配置を示す方向は複製点が一致する方向であることなどが判明した.これらの新しい知見を検証すると共に,生物分類の観点から構造変化の詳細を調べるため,さらに46種の細菌ゲノムのorthologous遺伝子配置比較を完了した. 2)13種の細菌ゲノムのparalogous遺伝子の配置比較を完了し,その結果,細菌におけるゲノム重複の可能性が極めて高いことが判明した. 3)同一生物種の複数クロモゾーム間の遺伝子配置を比較する方法を開発し,酵母ゲノムの16クロモゾーム上の重複遺伝子について,配置比較を完了した.その結果,ゲノム重複を起こしたことが推定されている酵母ゲノムにおいて,その祖先型のクロモゾーム構成について新しい知見を得た. 4)将来において遺伝子の配置と制御との関連を調べる準備として,遺伝子発現プロファイルから遺伝子の制御関係を推定する方法を開発した. 従来,配列類似性や遺伝子順序からゲノムを比較する研究は多いが,遺伝子の相対的な配置に基づいてゲノム間の相異を定量化する研究は,国内外とも見当たらない.遺伝子配置比較という観点からのゲノム比較によって、新しい知見が得られると共に,この観点からのゲノム構造変化のメカニズム解明の可能性を示すことができた.
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