研究概要 |
培養細胞の癌形質の中でも足場非依存的増殖能獲得は、浸潤や転移の必要条件となる重要な性質である。癌細胞は足場が存在しなくともG1期からS期に進行するが、正常細胞の場合には足場が存在しないとG1期に停止する。我々は増殖因子EGF存在下では癌形質、非存在下では正常形質を示すNRK(正常ラット腎線維芽細胞)を用い、この足場非依存的増殖を引き起こす癌化シグナル伝達系を解析してきた。 今回この癌化シグナル伝達経路の最終ターゲットを知るべく、NRK細胞を足場存在下で増殖開始させその後浮遊させて引き続き培養し、細胞周期制御因子群を解析した。足場存在下での培養が短いと細胞はEGF無しにはS期へ進行できない。このときCdk4,Cdk6,Cdk2が活性化し、E2Fの活性化も起こっていたがCdc6はmRNA,蛋白質ともに発現していなかった。EGF存在下ではCdc6が誘導されS期に進行する。逆にCdc6を大量発現した株ではこの条件でEGF非存在下でもS期への進行が有意に増加していた。以上のことから発癌刺激による足場非依存的増殖開始を決定する要因の一つにcdc6発現誘導があることが示された。ところがCdc6高発現株においても足場非依存的増殖停止するとCdc6タンパク質が経時的に消失する。このことは足場非依存的条件下におけるCdc6発現抑制は転写レベルおよび転写後レベルで制御されていることを意味する。この転写後制御はいかなるプロテアーゼによるものかインヒビターを用いた実験を試みた結果、この分解はカルパイン様プロテアーゼによるものであった。 以上癌化シグナルはCdk4,6,2の活性化とともにCdc6の発現誘導(mRNAレベルでの誘導とともにタンバク分解系の抑制により)をひきおこし、その結果足場非依存的培養条件下での増殖を誘導するものと考えられた。
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