研究概要 |
1.分裂期染色体のすべてに早期染色分体解離(total premature chromatid separation : total PCS)を示す遺伝形質のホモ接合体では,多彩な染色体の異数性細胞モザイクが認められ,重度な先天異常(成長障害,小頭,Dandy-Walker奇形など)を伴う.既に報告した2例(Kajii et al. 1998)に加えて,新たな4家系の5症例を追加調査する機会を得た.自験の7例と他の文献上の3例を併せて計10症例における臨床像の類似性,異数性モザイクとtotal PCSの出現を認めると共に,7例にウィルムス腫瘍,2例に横紋筋肉腫(1例は両腫瘍が併発),すなわち10例中8例に小児腫瘍の発生があることを確認した(Kajii et al.2001).したがって,total PCSは染色体不安定性に起因する先天異常を伴った新たな高発がん性遺伝形質であることが確認できた. 2.Total PCS症例よりウィルムス腫瘍の1検体を得た.初代培養を経て染色体解析を行った結果,染色体数は高2倍性(51〜53),各種染色体のトリソミー(WT1遺伝子の位置する11番はダイソミー)の他に,i(1)(q10)やadd(14)(p11)などの構造異常が認められた.継代培養からDNAを抽出し,DNA多型性を指標として腫瘍染色体での片親ダイソミーの検索を進めている. 3.Total PCSの遺伝形質に伴って産生される異数性細胞を様々な培養細胞系で解析して次の結果を得た.1)ヘテロ接合保因者および健常非保因者における異数性細胞の出現は低頻度で,両者間に有意差はない.2)ホモ接合の2症例における異数性細胞の頻度は,末梢血培養で9%と24%,リンパ芽球細胞株で25%と40%,皮膚線維芽細胞では41%と87%.線維芽細胞では7番,8番,18番のトリソミーが多いが,リンパ球系では染色体特異性はなかった.
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