研究概要 |
野村らは、IgG, IgMが検出限界以下のC.B17-scidマウスを20代以上選択交配した改良SCIDマウスを開発し、ヒト正常組織の長期(〜3年)継代・維持を可能にした。本研究では、ヒト正常組織(甲状腺、皮膚)を改良SCIDマウスに移植し、移植組織の継代・維持を行い、病理組織学的検索およびPCR-"Cold-SSCP"法、direct sequence法により、がん関連遺伝子の変異を経時的に検出し、放射線に対するヒト正常甲状腺組織や紫外線に対するヒト正常皮膚組織の前がん病変からがんに至る特性とその悪性化機構を究明することを目的とした。 改良SCIDマウスに移植された正常ヒト甲状腺(11例)は、マウスの世代を超えて、長期にわたって組織学的に微細構造が保たれ、患者の元の甲状腺と差は認められなかった。^<131>Iを正常甲状腺移植SCIDマウスの皮下に週1回投与(平均0.5MBq/日)した群(11例)では、投与回数の増加とともに移植甲状腺の濾胞の減少が見られたが、20回までの投与では、がん化やp53,K-ras, c-kit,β-catenin, RET遺伝子の変異は見られなかった。これは、^<131>Iの投与期間や移植甲状腺の年齢等が問題と考えられ、ヒト甲状腺組織に遺伝子変異と甲状腺がんを誘発するには、小児の甲状腺に長期にわたって放射線の投与が必要と思われ、現在実験中である。 また、太陽光類似の紫外線照射を受けたヒト正常皮膚組織18例中14例に光線角化症が見られ、さらに皮膚がんへの進展が4例に見られた。p53以外では、皮膚がん症例にK-ras、c-kitに変異が2つずつ重複して誘発されていた。β-cateninの変異は7例に見られたががん化との関連は見られなかった。さらに、移植ヒト組織の継代・維持を続け、発がん過程を明らかにしていきたい。
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