研究概要 |
ヒトの癌ウイルスであるEpstein-Barr(EB)ウイルスはヒト初代B細胞をトランスフォームし試験管内発がんを起こす。これには感染初期に同時発現される核蛋白EBNA-2とEBNA-LPが不可欠である。EBNA-2は転写活性化因子として作用し、EBNA-LPはEBNA-2の転写活性化を促進する補因子機能を持つ(Harada_&_Kieff, J. Virol., 1997)。本研究では、EBNA-LP補因子機能の作用メカニズム解明のために、EBNA-LPとEBNA-2との相互作用を検討し、さらにEBNA-LPと結合・会合する細胞性蛋白の検索を免疫沈降法および酵母のTwoハイブリッド法で試みた。その結果、免疫沈降法によってEBNA-LPと特異的に相互作用する蛋白をアミノ酸分析で同定した。Hsp70(72/73)との結合が確認され、さらに結合蛋白としてDNA-PK、HA95,Hsp27,proryl 4-hydroxylase α-1,α-tubulin,β-tubulinを同定した。また、酵母中で相互作用する細胞性蛋白遺伝子を検索し塩基配列を決定・同定した遺伝子の一つは、あるりん酸化酵素基質と結合してミトコンドリアに局在する蛋白HAX1であった。核蛋白EBNA-2の機能解析を目的とした免疫沈降およびGST融合蛋白実験などの蛋白蛋白相互作用解析の結果、EBNA-2のN末端領域の多量体形成能を発見した。一方、ウイルス発がん遺伝子産物LMP1はTNF受容体シグナル伝達系を模して機能するが、二つの核蛋白EBNA-2およびEBNA-LPが膜蛋白LMP1発現量調節の制御を司る。本研究でLMP1蛋白の上皮系細胞形質転換活性の検討を行うと共に、二つの核蛋白の機能制御が重要であると考え、核蛋白の機能と相互作用を解析した。2つの核蛋白の直接結合は証明されなかったが、本研究ではEBNA-LPの機能に関するドミナントネガティブ変異体を見い出した。この変異株はEBNA-2によるLMP1遺伝子の転写活性化を抑える効果を示したことから、これを利用した腫瘍細胞の増殖抑制を含む癌治療の可能性が示唆された。
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