研究概要 |
目的 SAPKシグナル伝達路は細胞の分化、アポトーシスやストレス応答に関わる主要なシグナル伝達路である。SAPKシステムは少なくとも3段階の連続したプロテインキナーゼ反応により構成されるが、それぞれのステップにおいて、プロテインホスファターゼによる負の制御を受ける事により、システム全体としての精緻な調節が行われると考えられる。本研究ではSAPKシグナル伝達路のプロテインホスファターゼによる制御機構を解明することを目的とする。具体的には、プロテインホスファターゼ2Cβ(PP2Cβ)欠損ES細胞を用いた解析により、PP2CβのSAPKシステムの制御因子としての生理的意義を明らかにすることを目的とする。さらに、最近我々がクローニングに成功した3つの新規のPP2CファミリーメンバーがSAPKシステムの制御に関わる可能性について検討する。 結果 PP2Cβ欠損ES細胞を用いた解析 SAPRKシグナル伝達路におけるPP2Cβの生理的意義を詳細に解析する目的で、PP2Cβ遺伝子を破壊したES細胞を作製した。ES細胞の野生株とPP2Cβ(-/-)株にアニソマイシンやUVによるストレスを負荷し、内因性のMKK4のリン酸化レベルを比較したところ、いずれのストレス刺激の場合もPP2Cβ(-/-)株のMKK4のリン酸化レベルは野生株に比べて亢進していた。ES細胞の解析と並行させて、PP2Cβ遺伝子ノックアウトマウスの作製も進めてきたが、これまでにgerm line transmissionが確認された。 新規PP2C遺伝子のクローニングと解析 ESTクローニングにより3種類の新規のPP2Cファミリーメンバー(ε,ζ,η)をコードするcDNAを単利した。これらのクローンのORFはいずれもPP2Cファミリー特有のモチーフを有しており、大腸菌で発現させたリコンビナントタンパク質はいずれもMg^<2+>/Mn^<2+>依存性でオカダ酸抵抗性のホスファターゼ活性を示した。293細胞における発現システムを用いて、IL-1依存性のSAPKシステムの活性に対するPP2Cε,ζ,ηの影響を調べたところ、ηにおいてPP2Cβと同様の抑制効果を観察した。
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