研究概要 |
細胞死と細胞増殖は生体を構成するユニットである細胞の運命を決定する機構であり、癌の生物学を理解する重要なキーワードの一つである。ATF3は、bZip型の転写因子であり、そのホモダイマーは強力な遺伝子抑制作用をもつことが知られている。ATF3は、酸化シグナル、紫外線、抗癌剤を含めた種々のストレス刺激によって迅速に誘導され、これらの刺激による細胞死誘導と深い関連を持つことが知られている。また、ATF3の発現は、血清刺激や再生肝など増殖刺激でも誘導されること、ある種の癌の悪性度や転移能と高い相関を示すこと、アンチセンスによるATF3の発現抑制が癌の増殖を阻害することなども知られている。従って、ATF3が細胞増殖や癌化においても機能していることが示唆される。本年度は、ATF3の細胞運命決定機構への関与について次の点を明らかにした。(1)小胞体ストレスによる異常折り畳み蛋白反応(Unfolded Protein Response : UPR)が細胞死を誘導すること(JBC,2001)、この過程で、ATF3がIRE1/TRAF2/JNK経路を介して発現されアポトーシス誘導に関与していることを明らかにした(BBRC,2001)。(2)アデノウイルスベクターを用いたATF3発現系を確立した。ATF3単独の発現のみでは、HeLa, Cos7,MCF7,HUVEC, M1などの細胞死を誘導しなかった。しかしながら、HUVECのTNF-αによる細胞死や心筋細胞、MCF7のDoxorubicin誘導アポトーシスを抑制することを見い出した(in preparation)。(3)さらに、ATF3発現細胞のマイクロアレイ解析からp53 mRNAがdown-regulationされることを見い出した。
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