研究概要 |
癌転移は癌患者の予後を決定する重要な因子であるが、癌細胞因子のみならず宿主因子も作用する複雑なメカニズムを有し、その分子機序には不明な点が多い。転移機構の解明のため、本研究では臨床組織(癌部、非癌部、転移部)から得られたサンプルを用い、その遺伝子発現をdifferential display法により包括的に解析した。その結果、転移癌組織で発現差を認める新しい遺伝子を同定した(GenBank登録AB040147)。このヒト転移関連遺伝子はマウスRho family molecule Rnd1と97%のホモロジーを有し、細胞接着に関連することが報告されている(Nobes et al. J Cell Biol 1998)。さらにPCRリアルタイム定量法(ABI7700)を用いて遺伝子発現差を詳細に解析するとともに、Rhoキナーゼ阻害剤との反応解析などの治療応用をめざした研究を進めている。次にマウス腫瘍モデルを用いて、肺と肝臓に対するそれぞれの高転移癌細胞株を樹立した。親株は10〜20%の転移率であるが、高転移癌細胞株は100%の転移率を示した。それぞれの遺伝子発現の差をDNA microarrayを用いて網羅的解析を行なった結果、肺転移株ではRho family GTPase, retinoblastoma binding proteinなど、肝転移株ではcyclin D1,Dead box protein, tubulin alphaなどが特異的に高発現していた。また、cytochrome P450,crystallinなどの発現減弱を認めた。これらのhuman homologueは、実際の臨床組織でも遺伝子発現差が認められており、現在その臨床応用を進めている。さらに、我々が同定した癌転移関連遺伝子の一部は分化誘導剤によって発現制御される遺伝子群と共通しており、分化誘導療法による網羅的遺伝子解析と癌治療への開発を進めている。本研究により、がんの個性に応じた包括的診断システム確立と治療応用を目的とした重要な結果が得られた。
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