研究概要 |
本研究の目的は,精巣腫瘍(リンパ腫を除く)の発生と,Y染色体の多型について関連の有無を検討し,個体差の疫学から精巣腫瘍発生の分子的機序に迫ることである. 今回は60例の日本人精巣腫瘍症例について病理学的診断,臨床病期,診断時の年齢とY染色体DNA多型との関連について解析を行った.Y染色体上に存在する3種類のDNA多型マーカー(SRY, YAP, DXYS5Y)を用いて,精巣腫瘍症例のY染色体を4種類のハプロタイプに分類した.さらに精巣腫瘍をセミノーマと非セミノーマに大別し,臨床病期および診断時の年齢とY染色体ハプロタイプとの関連を解析した.ハプロタイプIVをもつ症例での非セミノーマの割合はハプロタイプIの場合の7.5倍であり(P=0.025),またハプロタイプIIにおいて臨床病期の進展が認められる症例の割合はハプロタイプIの場合の4.8倍であZた(P=0.047).診断時の平均年齢はハプロタイプIをもつ症例が最も高く,ハプロタイプIVを持つ症例が最も低かった.また初発時の治療後の追跡期間中で悪性精巣腫瘍の再発が5例に認められた5症例の内3例がハプロタイプIIの症例であり,2例がハプロタイプIIIの症例であった.ハプロタイプIとIVの症例は認められなかった. これらの結果はY染色体のタイプが精巣腫瘍の発症やその病型の違いに関与している可能性を示唆するものであり,Y染色体の違いによって臨床的経過の予測につながるかもしれない. 個々の病理組織型の精巣腫瘍に関して,Y染色体ハプロタイプとの関連性を検討するためには更に症例数を増やす必要がある.
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