行動体の認知・学習における、「身体性」の情報論的意味の解明、特に、人間の身体ダイナミクスが高次元感覚運動空間をどのように構造化しているか、そしてそれに呼応した認知・学習のメカニズムは何かを解明することを目指して、計画初年度である本年度は以下の研究を行った。 1.感覚運動シミュレーションシステムの構築 高速な動力学計算、複雑な身体の環境接触運動シミュレーション、身体表面に分布した触覚センサや姿勢センサのシミュレーション、外部の制御システムとの接続・連携動作、などの機能を統合した感覚運動シミュレーションシステムを開発した。 2.実験用ロボット基本部の開発 全身各部で環境接触動作を行い学習実験するための特殊な仕様の小型ヒューマノイドロボットの基本構造の設計と試作を行った。ダイナミックな動きが可能で環境からのフィードバックを受けやすい機構、環境への衝突によって破壊されにくい構造を特徴とする設計とした。 3.感覚運動情報の時空間構造学習のための大規模ニューラルネットの構築と性能評価 時々刻々と入力される感覚運動情報に内在する時空間構造を抽出・学習するための大規模ニューラルネットモデルを構築し、様々な高次元時系列データを用いて学習・認識実験を行い、複数パターンの学習能力、ノイズ耐性、パターン伸縮耐性等の基本的性能が十分であることを確認した。 4.身体性に基づく行動パターンの自発学習実験 上記3.をベースにした感覚運動学習機構を1.のシミュレーション環境に接続し、1自由度の単純な身体が任意姿勢で環境と接触しつつ運動する場合についての自発学習実験を行った。外部から移動距離等の評価関数を一切与えず、初期知識としての基本行動要素も一切与えないものとした。システムは、当初ランダムに運動する中で、身体性に起因した感覚運動パターンを抽出・学習し、自発的にそのパターンを強化し、いくつかの有意味な行動パターンが創発されることを確認した。
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