蛋白質の分子表面の形状や物性とその機能の間には密接な関連がある。このため、蛋白質の機能解析において、類似した表面を持つ他蛋白質の構造や機能の参照は極めて重要な役割を果たす。そこで本年度は、蛋白質分子表面を3次元上の空間パターンとしてとらえ、空間パターン間の類似性を高速かつ高精度に評価するための並列計算に適した手法について検討した。 本手法は、初期位置合わせフェーズと局所探索フェーズの2つのフェーズから構成される。最初のフェーズでは、分子表面の突起や窪みにおける法線ベクトルを求め、比較対象となる2つの分子表面からそれぞれ2つのベクトル(ベクトルペア)を抽出し、相対位置関係が類似したものだけを位置合わせに用いる。ベクトルペアを基準にして表面を重ね合わせる処理は、各ベクトルペアの組み合わせに対して独立に実行することができる。そこで、この重ね合わせ処理の独立性に着目して並列化を図ることにより、並列度の高い位置合わせを実現した。 近傍探索フェーズでは、初期位置合わせフェーズの結果、類似度が高い位置合わせを出発点として近傍を探索し、より厳密に表面全体を重ね合わせる。近傍探索は、微小平行移動と微小回転移動の組み合わせとして得られる702の方向に対して行う。それぞれの方向に対しての探索を1つのジョブとすることにより、並列化を図った。 以上の方式を、20CPUから成るPCクラスタ上に実装し、抗体蛋白質のマッチング問題に適用した結果、精度の高い位置合わせが実現された。また、スレーブCPUの増加に応じて、ほぼ線形に性能向上が見られ、高い並列性を有していることが確認された。
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