平成13年度では、制御理論を応用することにより、TCP Renoの問題点を解消する方式を設計した。主に、定常状態においてもウィンドウサイズが安定しないという、TCP Renoの輻輳回避フェーズの問題点を、制御理論を適用することにより解消した。具体的には、(1)システム同定手法を用いて、送信側ホストから見たネットワークの遅延特性を数学的にモデル化する、(2)得られた遅延特性のモデルに対して、古典制御理論を適用することにより、ネットワークの変動に対してもロバストとなる、レート制御方式を設計した。 まず、送信側ホストから見たネットワーク全体を、ブラックボックスとしてモデル化し、モデルのパラメータをシステム同定によって決定した。送信側ホストから送信するパケットの送信レートを入力と考え、送信側ホストに到着するACKパケットによって計測するパケット遅延時間を出力と考えた。送信側ホストにおいて、パケット送信間隔およびパケット遅延時間を測定し、オンライン同定法を用いて逐次的にモデルのパラメータを決定した。遅延特性のモデルとしては、ARX (Auto-Regressive eXogeneous)を用いた。次に、ここで得られた遅延特性のモデルに対して、古典制御理論を適用し、ネットワークの変動に対してロバストとなるレート制御方式を設計した。TCPのスループット向上のため、TCP Renoのようなパケット棄却に基づくアルゴリズムではなく、TCP Vegasのようなパケット遅延に基づくアルゴリズムを採用した。いくつかのシミュレーション実験により、設計したレート制御方式の有効性を定量的に評価した。
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