病原性プリオン蛋白質(PrPSc)と正常型プリオン蛋白質(PrPC)が直接会合することが、PrPScの増殖の第一段階である。そこで、PrPCとPrPScの結合に関与するPrP分子上のドメインを調べることを目的として、各種PrP合成ペプチドがPrPC-PrPSc間の相互作用を阻害するか否かについて検討した。PrPCがPrPSc存在下でPrPSc様のProteinase K(PK)抵抗性分子(PrP-res)に転換する試験管内転換反応で、PrP合成ペプチドaa117-141、aa166-179、aa200-223はPrPCがPrP-resに転換するのを阻害した。これらのPrPペプチドはPrPCと結合することにより、PrPCとPrPScの結合を阻害することが判明した。結合阻害活性を示すPrPペプチドは反応条件下ではβシート構造をとる傾向があることから、PrPペプチドがPrPScのPrPCへの結合ドメインを模倣することでPrPCと結合し、PrPC上のPrPSc結合ドメインを占拠する結果、PrPCとPrPScの結合を阻害する可能性が示唆された。 PrPCとPrPScの分子間相互作用を解析する道具として、PrP分子に対するモノクローナル抗体(mAb)パネルを作製した。計34のmAbは認識するエピトープから9群に分類された。グループI〜VIはPrP分子上のリニアエピトープを認識する抗体、グル-プVII、VIIIはPrP分子上の構造エピトープを認識する抗体であった。また、グループIXはPrPSc特異的エピトープを認識する抗体である可能性が強く示唆された。aa59-89のリニアエピトープを認識するmAb、aa143-151を認識するmAb、およびaa1555-231領域内の構造エピトープを認識するmAbはプリオン感染細胞におけるPrPScの合成を阻害した。これらの抗体は細胞膜上に発現するPrPCと強く反応することから、抗体が細胞膜上のPrPCと結合することで正常なPrPC代謝経路が影響を受けるために、PrPSc合成の基質となるPrPCの供給が阻害された結果であると考えられる。
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