研究概要 |
細菌の細胞表層に存在するリポ蛋白質は病原性毒素の菌体外分泌生産、線毛・鞭毛の形成など病原性の発現に関与している。さらに、リポ蛋白質がマクロファージによるインターロイキン産生の誘導物質であることが判明し、免疫学の分野においてもリポ蛋白質に対する関心が高まっている。グラム陰性細菌である大腸菌のリポ蛋白質のなかで機能解析が行われているリポ蛋白質は20にも満たず、大部分は未だに解析されていない。本研究は、大腸菌を用いて、重要な細胞機能や病原性に関与するリポ蛋白質の機能を分子レベルで明らかにし、リポ蛋白質を標的とした新しい化学療法剤の探索、創製をめざすものであり、得られる基礎研究の成果をもとに実戦的スクリーニング系を確立することを目的として行われた。 新たに64のリポ蛋白質遺伝子を同定し、再確認した既知のものと合わせて大腸菌には少なくとも90のリポ蛋白質遺伝子が存在することを明らかにした。 全リポ蛋白質遺伝子の欠失変異株を構築し、生育、運動性、形態、薬剤感受性などについて解析した。形態異常を示す変異株のほかに、定常期に溶菌する変異株(Δb2512)、低浸透圧下で高温感受性の生育を示す変異株(ΔrlpA,ΔycfM)、運動性を喪失した変異株(ΔnlpC)、薬剤に高感受性になる変異株(Δb2512,ΔycfM)などを新たに得た。また、必須リポ蛋白質遺伝子としてlolB,のほかにb2595を同定した。 リポ蛋白質局在化に必須であるLolAとLolBのX線結晶構造解析から、3次構造を決定し、ドラッグデザインの道を開いた。
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