新型インフルエンザウイルスの出現は過去の世界的大流行の原因でもあり、インフルエンザにおいてもっとも重要な問題である。インフルエンザの流行に対しワクチンによる予防は有効な手段であるが、現在の生産システムは新型インフルエンザウイルスの出現に迅速に対応できる態勢ではない。 本研究では、リバース・ジェネティクス法を応用し、新型インフルエンザウイルスの出現に迅速に対応できるシステムを構築するための技術基盤を確立する。 ワクチン生産に必要なウイルスの遺伝子情報のみを取り出し、かつ任意にリバース・ジェネティクス法でウイルスとして回収するために転写鋳型DNA断片を作製した。レポータ遺伝子を持つインフルエンザウイルスゲノム様cDNAの両末端にRNAポリメラーゼIのプロモータとターミネータを付加したDNA断片をPCRで合成した。このDNA断片をインフルエンザウイルスのポリメラーゼ蛋白質発現プラスミドと同時に細胞に導入したところレポータ遺伝子の発現が確認できた。さらに、それぞれのディレーション変異体を作製してプロモータとターミネータの最小機能領域を同定した結果、プロモータ領域が約150塩基、ターミネータ領域が約50塩基の構造が効率よく機能的にRNAを合成できることが明らかとなった。この結果をもとに、A/WSN/33株のウイルス遺伝子cDNA末端にそれらの領域を付加したDNA断片を作製し、細胞に導入したところウイルスの合成が確認できた。 これらの結果より、インフルエンザウイルスのRNA遺伝子をRNA転写ができるDNA断片に変換し、任意にウイルスとして回収可能であることが示された。
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