病原性SHIVであるSHIV89.6P、非病原性SHIVであるSHIVNM-3rNをアカゲザルに静脈内接種し、その感染初期におけるウイルス学的、免疫学的、組織病理学的解析を行った。病原性SHIV89.6P感染ザルでは、感染後2週以内に末梢血中のCD4陽性細胞が枯渇し、血漿ウイルスRNA量も2週目にピーク(>10^9copies/ml)となり、その後10^6copies/ml前後のセットポイントを維持した。リンパ節・GALTでは、ウイルス産生細胞の出現を認めたが、その頻度は少なく、急速進行性のCD4陽性細胞減少を説明するのは困難と考えられた。方、胸腺では感染後2週以内で髄質細胞を中心にウイルス産生細胞強陽性所見が得られ、4週では胸腺組織の崩壊と末梢リンパ節における傍皮質領域での細胞の枯渇へと進行した。同様のウイルスロードを示すサル免疫不全ウイルス(SIV)ではこのようなsevereな病変は認められない。これらはSHIV89.6P感染に特異な所見であり、病態への関与が示唆された。一方、SHIVNM-3rN感染ザルでは、末梢血中のCD4陽性細胞数に大きな変化はなく、血漿ウイルスRNA量も2〜4週の間にピーク(<10^7copies/ml)となるが、その後セットポイントは減少し、検出限界以下となった。各SHIV感染ザルのリンパ系臓器でのプロウイルスDNA量を測定したところ、SHIV89.6P感染ザルでは2週目で胸腺、脾臓、腸管リンパ節のいずれも高値(10^4-10^6copies/μg)を示したが、SHIVNM-3rN感染ザルでは2週目ではほとんど検出限界以下であった。以上のことから、この2種のSHIVの感染初期における臓器指向性と増殖力が病態に反映していると考えられた。
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