エイズは主に性交渉によって蔓延する疾患であるから、その予防と治療の対策を講ずるにあたっては粘膜におけるウイルス感染機序の解明が重要である。またこれまでにSHIVとサルを用いて経膣や経鼻の粘膜感染系を確立してきた実験結果から、粘膜組織内には中和やCTLといった高度な獲得免疫以外にも特異的非特異的な免疫機構が総動員されていると思われるデータが得られている。こうした粘膜組織における防御機構については不明な点が多く、その解明はワクチン開発などに重要な指針を与えるものと考えられる。本年度は粘液中に含まれるウイルス侵入阻止に働く液性因子と粘膜組織内で感染細胞除去に働く抗原提示細胞(マクロファージ、樹状細胞等)について調べた結果、次の3点が明らかとなった。 1)アカゲザルへ弱毒SHIV株(SHIV-dn)を経鼻感染させたところ、粘液中に特異的なIgA並びにIgG抗体が検出され、強毒株(SHIV-89.6P)の経膣ルートの攻撃接種に対して良好な防御効果を示した。経静脈での弱毒株接種では、血清中の抗体産生が見られるものの粘液中に抗体を検出することはなく、経粘膜感染に特徴的な現象と考えられた。 2)サイトカインがウイルス感染の増殖様式や病態に与える影響を調べるため、IL-5、IL-6やIFN-γをウイルスゲノムに組み込んだSHIVを作成した。IL-5についてはアカゲザルへの感染実験を行った。IL-5はウイルスの増殖性能を高める効果が見られ、感染細胞から放出される液性因子の作用の重要性が改めて確認された。 3)SHIV-89.6Pは、アカゲザルマクロファージ(Mφ)で効率良く増殖することが分かった。Mφから産生されるサイトカイン等を調べたところ、感染前後でIL-12、TNF-α量に変動はなかった。感染MφではMHC class IIの発現が減少したことから、ウイルス感染に伴う抗原提示能の低下が示唆された。
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