ウィルスが感染した細胞では小胞体ストレス応答機構を介して、小胞体の恒常性維持(ひいてはウィルスの増殖促進)に働く遺伝子(小胞体に存在する分子シャペロン等)と細胞死を誘起する遺伝子(転写因子CHOP)の両方が活性化されており、生と死を指向するシグナルが小胞体から同時発信していると考えられている。このような視点から、小胞体ストレス応答とアポトーシスとの関連をより明確にすることが重要と考え、一酸化窒素処理によるマクロファージのアポトーシス誘導の解析を行って、以下の結果を得た。このモデルシステムにおいて、我々が単離した小胞体膜結合性転写因子ATF6が確かに活性化されて核移行型ATF6が産生されており、アポトーシスにおいて重要なミトコンドリアからのチトクロームCの放出に先立ってCHOPが転写レベルで誘導されることを見いだした。このマクロファージに膜結合性ATF6、核移行型ATF6、CHOPを導入するとアポトーシスが誘導された。この誘導されたアポトーシスはCHOPのドミナントネガティブ体で抑制された。さらに、CHOPを欠損するマウスから調製したマクロファージは一酸化窒素処理に対し抵抗性を示した。以上の結果から、このモデルシステムにおいては小胞体ストレス応答機構を介した転写因子CHOPの転写誘導が、アポトーシスに極めて重要な役割を果たすことが明らかとなった。今後、小胞体からの情報伝達を人為的に操作してウィルス感染細胞のみにアポトーシスを起こさせることが可能か検討したい。
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