C型肝炎ウイルスレセプターであるCD81タンパク質のメジャー細胞外ドメインであるLELタンパク質(CD81-LEL)とペプチド性の阻害剤を共結晶させた外形並びに結晶学的データが全く異なる新規な結晶についてSPring-8において2.6Å分解能のデータ測定を行い、この回折強度データと既に構造解析を整えたNativeの立体構造を基に、分子置換法の手法を用いて立体構造を決定した。その結果、阻害剤部分の電子密度については観測することはできなかったが、新たな結晶系においては、その立体講造が大きく変化していることが判った。その部位は、とりわけHCVが結合すると考えられるheadサブドメインであり、HCVの結合に重要であるPhe186残基の周辺が大きく変化していることが判った。その結果、2つの結晶系におけるCD81-LELの立体構造決定により、4つの可能なコンフォーメーションを得ることができた。2量体の形成に関与するStalkサブドメインは、立体構造が保持されていることから生体内においてもCD81が2量体として存在することを示唆している。一方、HCVの結合に関与するHeadサブドメインは、立体構造の柔軟さが観測された。HCV-E2蛋白質の結合に必須であるPhe186残基並びにその周辺の疎水性アミノ酸からなる疎水性クラスターは溶媒側に突出して存在し、いずれの構造においても、結晶内で他の対称な分子とパッキングしていた。従って、この領域がHCVとの相互作用に関与する部位であると考察できる。 また、CD81-LELタンパク質の発現精製を行い、もう一つのCD81の細胞外ドメインであるSELタンパク質(Small Extracellular Loop)との複合体の共結晶化実験を試みた。SELタンパク質はLELと共存することにより、HCV結合の活性を促進することがわかっている。このことより、CD81のLEL/SELの全細胞外ドメインの立体構造決定は、HCVワクチン開発を考える上で重要であると考えられる。共結晶化スクリーニングの結果、新たな結晶形を有するLEL/SEL複合体タンパク質結晶を得る事ができた。Spring-8にてX線回折データ測定を行ったところ、2.0A分解能のデータを収集することができ、空間群がC2に属する新規な結晶系に属することがわかった。
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