膜融合リポソーム(FL)は、本来気道粘膜に吸着・感染するセンダイウイルス(HVJ)の細胞膜付着・融合能のみをリポソームに付与したものであり、機能面で細胞膜結合・融合能を有した安全なバイオ・ナノキヤリアである。このFLの細胞質内物質導入ベクターとしての有用性・安全性をin vitro、in vivoにおいて今年度まで継続的評価を行ってきた。その結果、FLは殆ど全ての細胞に対して、細胞傷害性を示す事なく、リポソーム内に封入可能であれば、分子(抗原蛋白質・遺伝子)・粒子(機能性ナノ粒子)といった形状やその物理化学的性質に依存する事なく、如何なる物質をも効率よく細胞質内へ、一挙かつ直接導入出来る事を見い出した。即ちFLは、1)細胞内への物質導入に非効率なエンドサイトーシス経路を介する陽電荷リポソーム等の、従来までの細胞内物質導入キャリアよりも細胞内への物質(遺伝子・蛋白質等)導入効率や安全性の点ではるかに優れている。2)粘膜付着性を有する、3)HVJは元々ヒトに対して病原性を示さないうえ、事前に紫外線照射等によりHVJ自身のゲノムRNA遺伝子を完全に断片化しておく為、ウイルスベクターとは異なり安全性が高度に保証されている、4)内封された蛋白質や遺伝子に高い生体内安定性(プロテアーゼ回避能)を付与できるといった、粘膜ワクチン用の抗原デリバリー型アジュバントとして好都合な特性を有する事を明らかとした。以上の基盤的研究成果をもとに、粘膜ワクチン用のアジュバントとしてFLの有用性を経鼻投与により評価したところ、内封したOVA等のモデル抗原を効率よく鼻腔組織の上皮細胞やMac-1陽性細胞、NALTのM細胞に送達出来る事、その結果基礎的重要情報として、in vivo鼻腔粘膜面において強い抗原特異的IgAを誘導し、かつ全身系で十分な抗原特異的IgGをも誘導し得る事等を、当初計画通り見いだした。
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