一般に、哺乳類で2本鎖RNA(double-stranded RNA : dsRNA)interference(RNAi)を誘導することは困難であるが、少なくともマウス初期胚ではRNAiの存在が確認されている。また、ごく最近、導入するdsRNAを22bpと短くすると(short interfering RNA : siRNA)、哺乳類でも有意にRNAiが誘導できることが見い出された。これら長さの異なるdsRNAに対する細胞応答機構の違いに着目し、RNAiと免疫系の調節機構という2つの現象を自然免疫における宿主応答機構の多様性と捉え、両者の関連性と、その意義について検討を試みた。すなわち、レポーター遺伝子であるluciferase遺伝子とともに、完全長あるいは22bpのluciferase遺伝子のdsRNAをlipofection法を用いて哺乳動物培養細胞に導入し、luciferase活性の測定により、高感度にRNAiを検出できる実験系を構築した。その結果、完全長のluciferase dsRNA、あるいはpolyI : Cを導入した場合には、導入細胞において強い傷害が観察され、その際、luciferase活性の特異的な低下、すなわちRNAi効果は微弱であった。これに対して、luciferase遺伝子に対応するsiRNAを細胞内に導入した場合には細胞傷害の程度は弱く、luciferase活性の特異的な低下、すなわちRNAi効果が顕著に認められた。以上の結果から、長いdsRNAの場合と異なり、siRNAは、おそらくPKR(dsRNA-dependent protein kinase)とeIF-2a(eukaryotic translation initiation factor2)を介した細胞傷害作用の弱いことが、哺乳動物細胞においても高いRNAi効果を発揮しうる一因であると考えられた。今後は、dsRNAの認識から、RNAiあるいは免疫系の調節作用といった多様な細胞応答に至る個々のシグナル伝達機構を解析する予定である。
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