すでに構築している本菌のプロテアーゼや線毛の遺伝子の変異株(1)を用いて血小板凝集能の有無について詳細に検討した。その結果、以下のことがわかった。 (a)本菌の主要な線毛であるHimA線毛の完全欠損株でも野生株同様の血板凝集能を示したことからHimA線毛は本活性とは無関係である。(b)アルギニン特異的プロテアーゼ(RGP)の完全欠損株(rgpA rgpB)、RGPとリジン特異的プロテアーゼ(KGP)の完全欠損株(rgpA rgpB kgp)および血球凝集素完全欠損株(rgpA kgp hagA)はまったく血小板凝集活性を示さなかった。一方、KGPの完全欠損株(kgp)は野生株同様の活性を示した。(c)RGPの阻害剤であるleupeptinは野生株の血小板凝集活性を部分的に抑制したがTLCKは阻害しないことがわかった。また、トロンビンの特異的阻害剤であるhirudinでも抑制されないことがわかった。これらの結果はRGPプロテアーゼ活性の本菌の血小板凝集活性への関与を示唆したが血小板凝集活性のすべてがRGPプロテアーゼ活性で説明がつくかどうかについては疑問の余地が残った。上述の遺伝子群はプロテアーゼドメイン以外に付着因子ドメイン(アドヘジン)をコードしていることから、アドヘジンドメインタンパクの血小板凝集活性への関与もRGPとともに重要な働きをしている可能性が示唆された。(d)予めプロスタグランジンE1で処理した血小板では本菌による凝集は生じないことから血小板内でのシグナル伝達による血小板の活性化が必要な現象であることが示された。
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