今まで行われてきたサルの発症及び治療のモデルは、多くの場合薬剤としてヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤であるPMPAが使用されており、現在臨床で多く用いられるプロテアーゼ阻害剤はほとんど使用されておらず、ましてやSIVには無効と考えられている非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤は全く使用されていない。これは、現実の治療の状況とはかけ離れており、前臨床試験で採用することは困難であると言える。そこで初めに我々は、京大ウイルス研の速水教授らが開発した、HIVとSIVのキメラウイルスであるSHIVとマカクサルの感染系を用いて、これらがヒトの治療モデルに使えるかどうかをウイルス研のP3サル実験施設を使用させて頂き検討している。今年度は、まず、SHIV(KU-2株と89.6P株)を用いて、in vitroにおける薬剤耐性実験を行った。SHIVは5種類の逆転写酵素阻害剤(RTIs)に対しては、HIV-1とほぼ同程度の感受性を示した。しかし、プロテアーゼ阻害剤(PIs)に対しては、RTVとAPVは、HIV-1に対するのに比べ10倍以上濃度が必要であり、NFVとLPVは約5倍量必要であった。IDVは約3倍、SQVに関してはHIV-1と同程度の量で抑制できた。剤形や、この測定結果等から、今回は、AZT+3TC+LPV/r(コンビビル+カレトラ)の組み合わせ(これは、現在臨床でも行われている治療の組み合わせの一つと同じレジュメ)で薬剤投与を開始している。なるべく臨床における状況に近くするため、経口投与による試みを行っている。ただし、食べ物に混ぜて投与するため薬剤が本当に摂取されているかどうか判断がつかないことがある。そのため、血中の薬剤濃度の測定をする必要もでてくると考えられる。同時に、ヒトで用いられている治療の有効性の評価の指標(CD4数、RNAウイルスコピー数、proviral DNAコピー数、リンパ球のターンオーバーなど)や、薬剤の副作用や合併症の出現が、ヒトのものと同じかどうかも検討している。このモデルの確立の上に、今後感染サルへの免疫の誘導や、中和抗体の誘導などの免疫療法の新しい方法の開発を行っていきたい。
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