研究概要 |
病原細菌は様々な病原因子を菌体外に分泌していることが知られており、これまでに4つの分泌装置が確認されている。このなかでもタイプIII分泌装置と命名された分泌装置によって分泌されるタンパク質の一部は、直接、宿主細胞内に移行することが知られている。タイプIII分泌装置の超微形態学的解析は、細胞内寄生細菌である赤痢菌とサルモネラで行われているが、腸管上皮細胞付着型細菌におけるタイプIII分泌装置の形態学的な解析は行われていなかった。そこで腸管病原性大腸菌(enteropathogenic Escherichia coli, EPEC)をモデル菌株として、腸管上皮付着型細菌のタイプIII分泌装置の形態と特性を解析した。EPECのタイプIII分泌装置は、鞭毛基部に類似した基部構造と、基部から外側にのびたニードル部分から構成されており、既に報告されているサルモネラと赤痢菌のタイプIII分泌装置と類似した構造を示した。興味深いことに、ニードル部先端には特異な鞘状構造が認められ、サルモネラや赤痢菌では報告がなされておらず、EPECに固有な高次構造であった。鞘状構造は伸長が可能で、700nmもの長さの鞘状構造も認められた。免疫電顕の結果からこの鞘状構造はタイプIII分泌装置によって分泌されるEspAというタンパク質で構成されていることを明らかにした。腸管上皮細胞は厚い粘膜層で覆われているが、EPECのタイプIII分泌装置はEspA鞘状構造を伸長させることによって腸管粘膜を貫通し、病原因子を効率良く宿主細胞内に移行させることが示唆された。
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