本研究は緑膿菌のマルチコンポーネント型異物排出システム作動の分子機構および発現機構を明らかにすることにより、排出システム阻害薬の創製のみならず、抗菌薬によらない新規化学療法の展開を目指すものである。ゲノム配列から翻訳したアミノ酸配列のin silico解析を基にオリゴペプチドを合成し、ウサギポリクロナル抗体を作成した。それらの特異性は排出システム・ホモログ発現プラスミドから発現したタンパク質と抗体との反応性から確認した。こうして、5種のRNDコンポーネント・ホモログおよび3種の外膜コンポーネント・ホモログ特異抗体を作成した。これらの抗体でLブロスなどの培地で増殖した実験室株PA01での発現を調べたところ、5種類のホモログの発現は検出限界以下であった。一方、既知排出システムのうち、MexXY/OprMおよびMexCD-OprJはLブロスなどでは発現していないが、抗菌薬も含めた異物の添加によって適応的に発現することが分かった。一方、排出システム・ホモログのノックアウトは抗菌薬感受性や蛍光基質に対する排出活性に影響を与えなかった。しかし、排出システム・ホモログのコンポーネント遺伝子の発現プラスミドを用いて、既知の排出システムとのキメラシステムを構築したところ、明らかな排出活性が観察された。こうしてホモログの排出機能が明らかになった。さらに臨床分離緑膿菌のゲノムDNAを鋳型にして、mexD遺伝子をPCR増幅によりクローン化し、プラスミド・ライブラリーを構築した。それらをMexC-OprJ発現株への導入により基質特異性変異体を検索し、基質域拡張型のMexD変異体を得た。この変異体遺伝子の塩基配列の解析および部位特異的変異導入実験からRNDコンポーネントによる基質認識は、ペリプラスムループで起こっていることが示唆された。
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