研究概要 |
1.インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼ・PAサブユニットに存在するプロテアーゼ活性が、ウイルス複製にどのような役割を果たしているか明らかにするため、まず、ウイルス遺伝子の転写・複製に本活性が必須であるかどうか解析を行った。細胞内でPA、PB1、PB2、NPをそれぞれ発現させ、またNS遺伝子の5'および3'末端非翻訳領域の間にCAT遺伝子を挿入し、polIプロモーター下でRNAを合成させ、インフルエンザウイルスのモデルRNP(核タンパク質複合体)を再構成させる系で実験を行った(Brownlee G.G. et al.,Oxford Univ.との共同研究)。その結果、PAのプロテアーゼ活性部位を他のアミノ酸へ置換(S624A)しても、mRNA、cRNA、vRNAの合成に影響は見られなかった。さらに、リバースジェネティクス法により、PAプロテアーゼ活性部位を欠失したノックアウトウイルスを作成し、培養細胞でのウイルス増殖能について調べたが、wild typeとの間に、大きな差は見られなかった。今のところ、培養細胞レベルでは、PAのプロテアーゼ活性は、ウイルス増殖には必須ではないだろうと考えている。現在、個体レベルにおけるウイルスの増殖や病原性、宿主の免疫応答などへの関与について解析を行っている。 2.PAと相互作用する因子について解析を行ったところ、PAはインフルエンザウイルスのマトリックスタンパク質・M1と相互作用することが分かった。お互いに精製したPAとM1を用いて、プルダウンアッセイ、ウェスト・ウェスタンブロッティングを行ったところ、PA-M1間の結合が検出された。さらに、PAのプロテアーゼ活性は、Suc-LLVY-MCAを用いる試験管内の系において、M1の添加により阻害されることが分かった。M1がPAに結合して立体障害を引き起こすことでプロテアーゼ活性を阻害することが推測された。
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