HIV-1、C型肝炎ウイルスなどの持続感染による慢性感染症については、その抑制における宿主細胞性免疫の重要性が指摘されている。近年、われわれを含めた数グループが、各々優れた細胞性免疫誘導型プライムブーストワクチンを開発し、サル急性エイズモデルにおける発症防御に初めて成功した。これらの手法はエイズワクチンとして非常に有望であるが、この感染初期の防御効果がヒトにおけるエイズ発症阻止効果をどの程度反映しているかについては未知数である。そこで本研究では、細胞性免疫誘導型ワクチンによる感染初期の防御効果が、慢性感染症としてのエイズ発症阻止にどの程度つながるかを知ることを目的とし、サル免疫不全ウイルス(SIV)感染慢性エイズ発症モデルにおいて、DNAワクチン接種サルの特異的細胞性免疫を長期的に観察した。対照群の2頭がエイズ症状を呈して各々第17週、第45週に死亡したのに対し、DNAワクチン接種群の3頭は1年以上健在であった。しかし、その後、2頭がエイズ症状を呈して各々第81週、第136週に死亡した。残りの1頭は現在約3年になるが健在である。DNAワクチンを接種した3頭は、チャレンジ後約3ヶ月までは、特異的CD4Tリンパ球および特異的CD8Tリンパ球を維持していた。しかし、その3頭のうち最終的にエイズを発症した2頭については、その後1年までの間に、特異的CD4Tリンパ球レベルが低下し、血漿中のSIV量が増加に転じた。特異的CD8Tリンパ球レベルは末期まで維持された。一方、未発症の1頭では、現時点まで特異的CD4Tリンパ球および特異的CD8Tリンパ球ともに維持され、血漿中のSIV量も検出限界レベル以下にコントロールされた状態が維持された。以上の結果は、慢性期におけるSIV複製のコントロールと特異的CD4Tリンパ球レベルとの相関を示唆している。
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