「研究の目的」 C型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染成立機序と肝がん発症機構を明らかにする事を目的とする。HCV感染の大きな特徴として、20〜30年間にわたって持続感染することがあげられる。そこで(1)感染肝細胞のインターフェロン(IFN)系によるウイルス排除機構を阻害する可能性、および(2)CTLによるHCV感染細胞のアポトーシス誘導阻害の可能性について解析した。 「方法と結果」 C型肝炎ウイルス(HCV)に対してインターフェロン(IFN)治療感受性群と非感受性群の存在が認められている。そこで、IFNの治療効果を規定している宿主側要因を特定することを目的として、HCV感染者の肝生検材料でIFNシグナル伝達系の解析を行った。その結果、IFNα/β受容体の発現量は、感受性群では非感受性群に比較して有意に高く、また、JAB、CIS3の発現も高く、IFN感受性との相関性が認められた。2-5ASならびにPKRについては有意な相関は認められなかった。また、HCVによる抗アポトーシス性の獲得機構をHCVトランスジェニックマウス(CN2マウス)を用いて解析した。HCV遺伝子を発現しているCN2マウスに抗Fas抗体を投与し、24時間生存時間を観察した。HCV遺伝子を発現すると、DNA断片化が遅延し、カスパーゼ-3/7、カスパーゼ-9の活性化が減弱し、チトクロムcの放出が抑えられた。 「考察」 IFN非感受性群では、HCV感染によりIFNシグナル伝達系の遺伝子発現が修飾、抑制されている可能性が示された。また、CN2遺伝子が発現すると非発現マウスに比べて肝細胞のアポトーシスが抑制され、死ににくくなることが確認できた。以上の結果は、生体が本来持つCTLによるFasを介したウイルス蛋白質発現肝細胞の排除機構をHCVが回避する機構のひとつとして重要な知見と考えられる。
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