研究概要 |
結晶中をチャネリングする高速イオンは,結晶の周期ポテンシャルを,振動電磁場として感じ得る。もし,この振動数に対応するエネルギーがイオンの内部構造の励起エネルギーに一致すれば,イオンの共鳴的な励起が期待され干渉性共鳴励起と呼ばれている。我々は,放射線医学総合研究所の重イオン加速器(HIMAC)において,数10GeVという相対論的エネルギーの重イオンビームを用いて,従来の分解能を全く一新する干渉性共鳴励起の観測に成功している。相対論的エネルギーの重イオンビームを用いたために,非常に高いコヒーレンスが達成され,共鳴幅が先鋭化する。これらに基づいて,今までの精度および統計をさらに向上させる実験装置の導入および新たなビーム開発により,我々はチャネリング下の干渉性共鳴励起という特異な現象を活かした多価重イオンの精密原子分光を目的とした実験を行った。 平成15年度は,懸案であった結晶中でのイオン軌道を観測のために結晶標的として用いるSi検出器を開発することに成功した。この検出器を用いて出射荷電分布と付与エネルギーを同時測定しながら,全く同条件下で,H-like Ar^<17+>イオンの基底状態からn=2,3,4への共鳴励起を観測した。このように複数の共鳴励起ピークを観測することから,ビーム速度と遷移エネルギーを同時に高精度で決定することができるため,基底準位のラムシフトが求められる。すなわち,ラムシフトは基底状態において圧倒的に大きい値を示すため,n=2,3,4の準位では無視できるとして,理論値を採用すると,n=1,2間,n=1,3間,n=1,4間のエネルギー差測定から,n=1の準位とビーム速度が同時決定される。従来行ってきたH-like, He-likeイオンの同時観測による原子分光実験の際に精度を制限している大きな要因は,イオン軌道がイオン散乱角度だけからでは正確に押さえられないため,シュタルク効果を完全には補正できないことのみならず,2種類イオンの入射エネルギー等の条件の違いを押さえることの困難さに起因していた。しかしながら本手法ではそのような問題は存在せず,より高い精度でラムシフトが決定されたと考えられ,現在詳細な解析評価が進行中である。
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