研究概要 |
本研究は,代表的な遷移金属錯体触媒反応であるロジウム錯体触媒不斉水素化のエナンチオ選択性の発現機構の解明を目指したものである。すなわち,α-およびβ-デヒドロアミノ酸,エナミド,エノールエステルのロジウム錯体触媒不斉水素化のエナンチオ選択性の発現機構を当研究室で開発した極めて単純な分子構造をもちかつリン原子上の原子密度の高いP-キラルジトリアルキルホスフィン配位子(BisP^*, MiniPHOSなど)を用いて行った。その結果,多核種核磁気共鳴分光法によって二座ホスフィン配位子を有するロジウムジヒドリド錯体を検出するとともに,その錯体と基質との反応について詳細に調べ,不斉水素化がジヒドリド機構で進行していることを明らかにした。また,一方において密度汎関数法による反応経路のシミュレーションを行い,この機構を支持する結果を得た。これらの不斉触媒反応のエナンチオ選択性はジヒドリド錯体と基質の会合と続いておこる挿入反応の段階で決定され,1.配位子のトランス効果,2.反応にかかわる軌道の相互作用,3.キレーションの形成,4.リン原子上の置換基とキレート環との立体相互効果,5.アルケンに結合している置換基の電子的効果の5つの因子によって支配されると推定された。このような複数の因子が高度のエナンチオ選択性の発現要因である点で,ロジウム錯体触媒不斉水素化も酵素反応の選択性発現機構と類似している。この考えに基づいて,従来提案されている錯体の立体構造と生成物の立体化学を関連づける象限則を再検討し,関連する多くの実験事実を合理的に説明しうる改訂版を提案した。 一方,これらの反応機構に関する研究成果を踏まえて,ほぼ完全なエナンチオ選択性と高い触媒活性を発現する新しいホスフィン配位子を開発した。
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