研究概要 |
本研究者の開拓した光学活性ジホスフィンと1,2-ジアミンをともに配位子とする塩化ルテニウム錯体は、2-プロパノール中、塩基の存在下、様々な単純ケトン類の不斉水素化反応において極めて高い活性と立体選択性を示す。しかし、塩化物錯体を触媒前駆体に用いるため、活性種であるルテニウムヒドリド錯体を発生させるためにアルカリ塩基を添加する必要があり、塩基性条件下で不安定な基質の水素化には制限があった。この問題を解決するために種々検討を行った結果、塩化ルテニウム錯体を水素化ホウ素ナトリウムで処理して得られるRuH(η^1-BH_4)(diphosphine)(diamine)が塩基無添加条件でケトン類の水素化に高い活性を示すことを見い出した。光学活性ジホスフィンに2,2'-ビス(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-1,1'-ビナフチル(XylBINAP)、1,2-ジアミンに1,2-ジフェニルエチレンジアミン(DPEN)を配位子とする錯体を用いて、塩基性条件下で容易に重合生成物を与えるα,β-不飽和ケトンの3-ノネン-2-オンを定量的に対応するアリルアルコールに変換することができた。鏡像体過剰率は99%であった。RuH(η^1-BH_4)錯体を試薬として販売する目的で企業との共同研究を開始した。 本反応の機構解明は、水素化に限らず、有機化学反応の触媒設計に新たな指針を与えるものと考え、検討を行った。塩基を添加することなく活性種を生じるRuH(η^1-BH_4)錯体を触媒前駆体に用いた。構造化学的解析および速度論実験を行うことにより、1,2-ジアミン配位子をもつルテニウムヒドリド錯体が活性種であることを明らかにした。ルテニウムに配位してカチオン性を増した一級アミン水素がケトン基質のカルボニル酸素と相互作用し、同時にルテニウムヒドリドがカルボニル炭素を求核的に攻撃する金属-配位子二官能性機構を提唱した。
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