研究概要 |
1.背景:プラスチックが引き起こしている環境諸問題の解決には,プラスチックの回収利用が前提であり,インフラの整備や回収意識の固定化が推進されている。また,回収困難なプラスチックへの対策として,微生物分解性プラスチックが開発されている。このような環境対策は,高性能プラスチックには適用できない。その理由は,(1)高性能プラスチック類は使用量が汎用プラスチックに比べて少なく,回収再利用が困難であること,また,(2)現在開発されている微生物分解性プラスチックは力学特性が劣るため,である。これらの対策として,複合化による既存プラスチックの高性能化が考えられる。しかし,汎用プラスチックや微生物分解性プラスチックを補強材と複合化して高性能化する場合,前者では異種補強材が回収再利用処理の障害になり,後者では微生物分解性を有する補強材が現存しないという問題がある。 2.目的:本研究では,環境低負荷型高性能プラスチック複合材料の開発を目的とし,上記問題を解決する複合材料の創製を目指す。具体的には,以下のサブテーマを設定した。 (1)生物分解性ポリマーウィスカーの調製と複合化(高性能微生物分解性プラスチック複合材料の創製) (2)汎用ポリエステルウィスカーの調製と同時樹脂による複合化(汎用プラスチックの高性能化) (3)生分解性プラスチックの高効率合成(部分ラセミ乳酸からのポリL乳酸の不斉誘導重縮合法の開発) 3.結果:サブテーマの結果を以下にテーマごとにまとめた。 (1)固-液相中でのグリコリドの重合により,PGAの延伸鎖が長軸方向に配向したウィスカーを得ることができた。これに対してPLLAにおいては,PGAに比べて溶解性が高いことから用いた溶媒系ではウィスカーは生成しないことが分かった。 (2)汎用樹脂であるポリブチレンテレフタレート(PBT)を対象ポリマーとしてPBTのウィスカー化を検討した。環状オリゴマーの生成収率は,原料ポリマーの末端水酸基濃度と相関があり,[OH]=200付近で収率の極大を与えることが分かった。この方法を用いると,通常の6.5倍も環状オリゴマーの生成収率を向上させることができた。得られた環状オリゴマーを用い,トルエン中でカチオン開環重合結晶化を行うことにより,高結晶性のPBT板状結晶が得られることが分かった。ウィスカーは得られていないが,高結晶性の板状結晶が得られたことにより,重合条件のさらなる探索によってウィスカーが生成する可能性が示唆された。 (3)部分rac-ラクチド(L/D=95/5)の重合において,トルエン-n-デカンの混合貧溶媒を用いて結晶化を誘起する開環重合結晶化法により,L/D比が98.7/1.3のPLAが得られ,L体だけを選択的に合成するエナンチオ選択重合の可能性を見いだすことができた。
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