研究概要 |
本研究では,情報処理機器の設置密度の高い情報作業環境の実態に即した,特にプリンターからの発塵粒子を対象とした新たなIAQ評価手法を提案することを目的としている。市販のインクジェットプリンタ(IP),モノクロレーザー(MLP),カラーレーザープリンタ(CLP)を試験体として選択し,クリーンブース内に設置した発塵量測定装置に入れて,発塵量,粒径分布,帯電量分布,発塵粒子の形状および元素組成を調べた。さらに,粒子の安定性を調べるためにディフュージョンドライヤに発塵粒子を通した。その結果,発塵量は,IPで10^6個/枚オーダーであり,一方MCPおよびCLPでは,印刷時,給紙時のいずれも10^7個/枚オーダーとなった。粒径は,いずれのプリンタでも0.1μm以下の微小粒子が占めていた。このことは,トナーや主インク滴が直接発生していないことを意味する。さらに,粒子の安定性の試験では,いずれのプリンタからの発塵粒子も不揮発性の核と水から構成されていることがわかった。具体的には,IPの粒子は,サテライトと呼ばれる吐出された主インク滴の下流に形成される微小液滴が飛散し,水分が蒸発した粒子であり,最終的には30nm未満の染料成分からなる固体粒子に変わる。MLPおよびCLPの粒子は,トナーに含まれるスチレンおよび紙に含まれる水分が定着時の加熱により蒸発し,多成分系均一相核生成を起こし35nm前後の粒子を生成する。室内環境中に放出された粒子は,水分が蒸発して収縮するが,スチレンを主成分とする不揮発性成分(粒径30nm)のみの粒子となり長時間安定して残留する可能性がある。以上のことから,プリンタから発生するナノサイズの粒子をエレクトレットフィルタ等による除去対策を講じるともに,ナノサイズ領域を対象とした基準を新たに策定することの重要性が示された。
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